高校生のための就職マップ

技能・技術系ってどんな業界?

技能職と技術職は、一見似ているようですが役割や求められる能力は異なります。

  • 技能職は現場で実際に製品や部品をつくる仕事です。溶接や組み立て、旋盤加工など、手作業や機械操作を通じて直接モノづくりを行います。手の感覚に頼る細かな調整や作業を伴う仕事で、長年の経験で培った感覚が品質に大きく影響します。ただし、現代の製造現場ではデータや標準化手順と組み合わせて品質を守ることが主流になってきています。経験と最新技術の両方を活かすことで、高精度な製品づくりが可能になります。
  • 技術職は工場や製造ライン全体の仕組みや工程を設計・構築する仕事です。製品設計、製造プロセスの改善、設備導入計画、品質管理などを担い、理論や工学的知識をもとに現場を支える役割を果たしています。

技能職は「モノをつくる人」、技術職は「モノをつくる仕組みをつくる人」とも言え、どちらも製造業やモノづくりの現場には欠かせない存在です。

技能分野では熟練者の引退が迫る一方で若手の就業希望者は減少し、技能継承の空白が広がっています。かつての徒弟制度や現場OJTによる自然な技術伝承は弱まり、手作業ならではの精度や品質を再現できる人材が減少傾向です。現場ではロボットや自動化機器の導入が進みつつありますが、高齢の作業者と若手の間でデジタル機器の活用度に差があり、効率化の効果を十分に引き出せていません。

技術分野でも高度な設計・開発スキルを持つ人材が不足しています。とくにAI、IoT、データ解析などの新しい技術領域では習得スピードの速い人材の確保が難しく、研究開発や製品設計の面で日本企業全体の競争力低下につながっています。

また、中小企業では既存システムの維持・更新に人的リソースが割かれ、新技術への投資や開発力強化が後回しになりがちです。これが、生産性向上を図る上での大きな課題になっています。

技能・技術系の業界ではアジア諸国を中心としたグローバル競争の激化、顧客ニーズの多様化、環境規制の強化など外部環境が急速に変化しています。技能・技術の両面において、これまで以上に高度で柔軟な対応と、価格・生産性の両立が求められています。

さらに製品のコスト競争力強化を優先するあまり、生産拠点をよりコストの安い国に移す企業が増加しました。その結果、国内事業所の縮小や閉鎖が相次ぎ、地域の技能・技術基盤が弱体化する悪循環も見られます。こうした動きは短期的なコスト削減にはつながる一方で、国内での技能・技術の継承機会を失わせ、将来的な競争力低下を招くリスクをはらんでいました。

このような状況を受け、経産産業省が進める「デジタル人材育成プログラム」や企業が連携して実践的なケーススタディ教育を行う取り組みなどが進行中です。ICTやAIを活用した教育プログラム、デジタルと手作業の融合、柔軟な働き方の導入などにより、新しい世代の参入を促しながら、国内における技能・技術の基盤強化を図ることが急務となっています。

参考:

経済産業省「2025年版 ものつくり白書」

技能・技術系の仕事は製造・加工、機械組立、整備・修理、品質検査などモノづくりの現場を支える職種です。令和6年度の文部科学省「学校基本調査」によると、高卒就職者のうち約38.6%(49,567人)がこの分野に就いており、最も多い就職先となっています。特に製造業や自動車関連、電子機器、食品加工など、多様な業種で高卒人材が活躍しています

厚生労働省「令和5年雇用動向調査」によれば、製造業の離職率は全産業平均と同程度(約15%)です。しかし、現場の高齢化や熟練技能者の引退により、業界全体の人材不足は深刻化しています。特に最新の機械操作やデジタル技術を使いこなせる若手が不足しているため、企業は人材育成に力を入れています。

技能系・技術系の業界はモノづくりが好きで、手先の器用さや集中力を活かしたい人にとってはやりがいのある業界です。また、多くの企業では資格取得支援やOJT研修が整備されており、入社後に専門的な技能を身につけられるチャンスがあります。就職を考える際は、職場の設備や研修制度、将来のキャリアパスについてもよく確認しておくと安心です。

就職率について

(令和6年度学校基本調査より)

(厚生労働省「令和5年雇用動向調査」)

技能・技術系の仕事は現場経験を積むことで早くから専門的なスキルを習得できます。例えば技能職では溶接や機械加工、組立などの高度な作業技術、技術職ではCAD設計や品質管理、設備保守の知識を若いうちから現場で学べます。実務経験を多く重ねることで、資格取得や昇進にも有利になります。

技能・技術系の現場では「適性や技術の高さ」が評価される傾向が強く、努力や成果がそのまま昇給・昇格につながります。熟練技能を持つ職人や、設計・開発スキルに優れた技術者は企業にとって貴重な存在となり、責任あるポジションや高収入を早期に得られる可能性があります。

近年は技能系の現場にもロボットや自動化機器、3Dプリンターなどが導入され、技術系の分野でもAIやIoTを活用した設計・品質管理が進んでいます。これから入社すれば、従来の職人技や現場スキルを学びながら、同時に最新のデジタル技術にも触れられるチャンスがあります。こうした複合スキルは将来の転職や独立にも役立ち、長期的なキャリア形成において強みになります。

技能・技術系の仕事は精密な作業や高度な知識を伴うため、一人前になるまでに一定の時間と経験が必要です。技能職では溶接や旋盤加工、精密組立など繊細な手作業を、技術職では設計・品質管理・設備保守など理論と実務を組み合わせたスキルを習得しなければいけません。最初は思うように上達せず苦労することもありますが、基礎をしっかり固めるように意識することが大切な業界です。

技能・技術系の業界では入社直後から高度な作業を任されることはほとんどありません。まずは先輩の補助や材料準備、測定・記録などの基礎的な業務が中心になります。この期間を経て徐々に本格的な業務に進むため、やりがいを感じにくかったり「思っていた仕事と違う」と感じたり人もいます。しかし、この基礎期間で身につける安全管理や作業手順の理解が後の技術習得に直結します。最初は地味な作業が続くことを前提にして腰を据えて学ぶ姿勢が必要です。

技能・技術系の仕事は資格や技能検定の取得が昇進や給与アップに直結しますが、会社によって教育制度や資格取得支援の有無・内容には大きな差があります。入社後に「思ったほどサポートがなかった」と後悔しないためにも事前に研修制度の有無や資格取得費用の補助内容を確認しましょう。技能・技術系の会社の制度が不十分だと、自己負担や休日を使って学ばなければならない場合もあります。

技能・技術系といっても、製造、品質管理、精密加工、設備保守、設計開発など分野は多岐にわたります。そのため会社ごとに強みや専門性が異なり、求められるスキルやキャリアの方向性も変わります。自分がどの分野に興味があり、将来的にどのような技能や技術を身につけたいのかを考えたうえで選ぶことが大切です。また、その分野が今後も需要が見込まれるのか、業界の動向や企業の成長戦略もあわせて調べてみましょう。

技能職は現場での作業・製造・加工など「手を動かす」仕事が中心で、技術職は設計・工程管理・品質管理など「仕組みを作る」仕事が中心です。そのため会社によっては技能職から技術職へキャリアチェンジできる場合もありますが、基本的には採用時点で役割が異なります。技能系・技術職の会社を選ぶときには自分が現場で腕を磨きたいのか、仕組みづくりや管理業務に興味があるのかを見極めたうえで、どちらに軸足を置く会社なのか確認しましょう。

技能・技術系の仕事はチームでの連携や長期的なキャリア形成が前提になるため、会社ごとの職場風土や価値観との相性がとても重要です。例えば「品質第一でじっくり作業を進める会社」もあれば、「スピードや効率を重視して新しい方法を積極的に試す会社」もあります。また、社内の上下関係やコミュニケーションの取り方も会社によって大きく異なります。そのため説明会やOB・OG訪問、インターンなどを通して、自分の性格や価値観に合う文化を持った企業かどうかを確かめましょう。