【現状と課題】
製造業は原材料を加工して製品を生み出す産業であり、自動車や機械・電機だけではなく食品、化学など多岐にわたる分野を含みます。
現在の製造業界の現状としては円安の追い風を受けて輸出が好調な企業も多く、全体としては利益を上げている企業が増えています。一方で製造に必要な資材の価格やエネルギーコストの高騰、サプライチェーンの不安定化といった逆風も同時に存在しており、企業によって業績の「振れ幅」が大きくなっているのが特徴です。つまり、「儲かるときは大きく儲かるが、損失も大きくなりやすい」不安定な構造にある業界です。
こうした状況下で最も深刻な課題となっているのが人材不足です。特に若手人材の採用が進まず、現場では高齢化が進行している点が挙げられます。さらに、高齢化によってベテラン技術者の引退が進み、技術の継承や安定的な生産体制の維持が難しくなってきています。また、製造業系業界ではデジタル技術や自動化の導入も進められてはいるものの、それを扱える人材の育成が追いついていない企業も多く、「人がいないから成長できない」という悪循環に陥っているのが実情です。
つまり製造業系業界は今まさに人材を必要としている業界であり、高卒であったり専門的な学科を出ていなくても、意欲や適性があれば十分にチャンスの多い業界といえます。
・高校生の就職率
高校卒業後の就職率（就職希望者に対する就職者の割合）は98.0％と非常に高い水準となっており、就職を希望する生徒はそのほとんどが就職できているのが現状です。
様々な業界の中でも製造業界は、高卒者にとって就職先として非常に多くの受け皿を持つ分野であり、2024年度に文部科学省が行った「学校基本調査」によると、高卒就職者全体のうち約40.4％（51,958人）が製造業に就職しています。男子では約45.4％、女子でも約31.7％が製造業を選択しており、いずれも他の産業と比べて高い比率です。
このようなデータからも分かるように製造業界は高卒者に対して門戸が広く、特別な資格や経験がなくても就職のチャンスがある業界です。安定した需要と幅広い職種があり、ものづくりに興味がある高校生にとっては、将来性のある魅力的な進路のひとつといえます。
就職率について
(令和7年3月高等学校卒業の就職状況(令和7年3月末現在)に関する調査より)
・高卒で製造業系業界に就職するメリット
1.未経験でも就職できる
製造業系業界は多くの企業が高卒の新卒採用を積極的に行っており、特別な資格や経験がなくてもスタートできる業界です。そのため入社後に基礎から学べる研修制度が用意されていることが多く、ものづくりに興味があれば意欲次第で一人前の技術者を目指すことができます。実務や研修を通じてスキルを身につけていけるため、早くから現場で活躍したい人にとっては大きなチャンスのある業界です。
2.専門的な知識やスキルを身につけられる
製造業では機械の操作や製品の加工、品質管理など、現場で必要とされる多くの専門知識や技術を実践の中で学ぶことができます。そのため高卒で未経験からスタートしても、現場研修や研修制度を通じて、徐々に高度なスキルを身につけることが可能です。また、業務を通じて取得できる資格も多く、キャリアアップにつながるチャンスも豊富にあります。手に職をつけたい人や長く使える技術を習得したい人にとっては、大きな魅力のある業界です。
3.自分の仕事の成果が目に見える
製造業の魅力のひとつは、自分が関わった製品が実際に形になり、世の中に出ていく過程を間近で見ることができる点です。自分が関わった製品を街中で見かけるなど、目に見える成果があるからこそ、「自分の手でつくった」という実感や達成感を得やすく、日々の仕事のモチベーションにもつながります。ものづくりに興味がある人にとっては自分の仕事の意味を強く感じられるやりがいのある業界です。
・高卒で製造業系に就職するときの注意点
1.体力だけではなく集中力も求められる
製造業では体力が必要な場面もありますが、体力以外にも重要な力が「集中力」です。製造業系特有のライン作業や精密な部品の組み立てなどは、単調な作業の中でミスなく進める集中力が求められます。さらに、小さなミスが製品の不良や事故につながる可能性もあるため、注意深く丁寧に仕事に取り組む姿勢が重要です。体を動かすだけでなく、頭も使う仕事、業界であることを理解しておくようにしましょう。
2.配属先や勤務時間によって生活スタイルが変わることもある
製造業系では配属される工場や部署によって、勤務時間や生活リズムが大きく変わることがあります。日勤だけでなく、早番・遅番・夜勤などの交代制勤務がある職場も多く、慣れるまでに時間が必要になることが多いです。さらに勤務地が遠方になれば引っ越しや寮生活が必要になるケースもあります。そのため入社前に自分の生活スタイルや体調管理とのバランスを考え、柔軟に対応できる心構えを持っておくことが大切です。
3.長く働くには「会社との相性」が大切
製造業に限らず長く働き続けるうえで大切なのが「会社との相性」です。仕事内容だけでなく、職場の雰囲気や人間関係、福利厚生、評価制度などが自分に合っているかどうかが、働きやすさに直結します。たとえ条件が良くても、価値観や働き方にズレを感じる職場ではストレスがたまりやすくなります。そのため会社見学などを通じて、実際の現場を知り、自分に合う環境かどうかを見極めることが重要です。
・製造業系業界の会社を選ぶときのポイント
1.自分の性格に合った仕事内容かどうかを確認する
製造業系の会社を選ぶ時には自分の性格や長所に合った仕事かどうかを確認するようにしましょう。製造業はライン作業・機械操作・検査・設計・品質管理など仕事内容が多岐にわたります。細かい作業が得意な人には検査業務や組立作業が適しており、体を動かすことを好む人には物流業務や機械オペレーターといった職種が向いていることが多いです。自分に合っていない業務に従事すると、意欲の低下やストレスの原因となることがあります。そのため、自身の性格や得意分野を把握したうえで、それに適した職種かどうかを見極めることが重要です。
2.社員の定着率や離職率を確認する
製造業系の会社を選ぶときは社員が長く働き続けているかどうかを示す「定着率」や「離職率」もチェックするようにしましょう。これらの数字は職場の働きやすさや人間関係、待遇の満足度をある程度知ることができる要素になります。離職率が高い会社は労働環境やマネジメントに問題がある可能性もあるため注意が必要です。企業説明会や口コミサイト、OB・OGのレビューなどを調べて、就職希望先の製造業系会社のリアルな情報を集めておくと安心です。
3.教育・研修制度が整っている会社かチェックする
高卒で製造業に入社するときは、入社後の教育や研修制度がしっかりしているかどうかを必ずチェックしましょう。未経験からでも安心してスタートできるよう、基礎から丁寧に教えてくれる体制が整っている会社であれば、技術や知識を無理なく身につけることができます。また、現場での実務指導だけでなく、資格取得支援やキャリアアップにつながる研修がある企業は将来を見据えて成長しやすい環境です。製造業系会社で長く働きたい人ほど、入社後のサポート体制に注目しましょう。
